東京地方裁判所 平成4年(ヨ)2236号 決定 1992年7月07日
債権者
エドムンド・ラ・ローサ・ラモス
同
ジェフリー・サントス・ガルシア
同
ルイス・ペレス・マグポック
同
ローランド・クルス・ピニアーノ
同
ロバート・アシニエロ・リム
同
ステフェン・ラッシュ・ファニーリョ・ヴァレンシア
同
マリア・アントニエット・リヴォ・ダンピット
同
マリア・アントニア・ガルシア・アベス
同
ヘレン・ラディネス・アリオラ
同
ルース・リコ・デュカイ
右債権者ら訴訟代理人弁護士
鈴木篤
同
福地直樹
同
野田美穂子
債務者
山口製糖株式会社
右代表者代表取締役
山口勝己
右訴訟代理人弁護士
田中康友
主文
債権者らの本件申立をいずれも却下する。
申立費用は債権者らの負担とする。
理由
一申立の趣旨
1 債権者らが債務者に対し、雇用契約に基づく技術労働者としての権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は債権者らに対し、平成四年三月以降本案判決確定まで毎月末日限りそれぞれ月額各金二七万九三〇〇円の割合による金員を仮に支払え。
3 債務者は債権者らに対し、それぞれ別表①3記載の金員を仮に支払え。
4 債務者は債権者らに対し、平成四年三月一一日以降本案判決確定まで隔週水曜日限りそれぞれ二週間あたり金七〇〇〇円の割合による金員を仮に支払え。
5 別表②上欄記載の債権者らが、同表下欄記載の建物を使用する権利を有する地位にあることを仮に定める。
二本件各疏明資料により認定できる前提事実
1 各債権者らの経歴
債権者らの国籍はいずれもフィリピン国であって、債権者ラモス、同ガルシア、同マグポック、同ピニアーノ、同リム及び同ヴァレンシアは、いずれもフィリピシ国において電子工学系の大学を卒業したものであり、債権者ダンピット、同アベス、同アリオラ及び同デュカイはいずれもフィリピン国において化学工学系の大学を卒業した者である。
2 債務者の経営内容
債務者は製糖製造業を営む資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、江戸川区臨海町及び江戸川区新木場町に工場を所有し(右工場以外特別の研修施設や研究所はない。)、従業員は約七〇名である。
債務者は近時の人手不足に対処するため外国人労働者の採用を計画し、そのための方法について入国管理局の指導を受けるとともに打合せを重ねた結果砂糖製造の工場労働について、一〇年以上の技能労働者もしくはそれに相当する知識や学力のある者または理科系大学卒業者であれば、日本国内において就労可能な「技術」としての在留資格の申請が可能であるとの結論に至ったので、後記のとおりフィリピン国において労働者を募集したものである。
3 債権者らが日本国に入国し、債務者における就労を開始するまでの経緯
(1) 債権者らは、フィリピン国において、平成三年八月ころの新聞紙上にアヤック・インターナショナル・カンパニー(以下「アヤック」という。)の名前で掲載された化学技術者及び電気技術者を募集する旨の広告を見てこれに応募した。右広告に応募した者は約三〇〇名にのぼったが、同月一三日ないし一四日にかけて書類選考により三〇名程に絞り、それらの者に対して、債務者の代表者である山口及び右募集についての債務者の現地担当者であるバンコーラが個別面接をするとともに「来日後製糖技術について研修の機会が与えられる。賃金は手取り三〇〇ドルであり、日本への渡航費、諸手続費用、食費はこれとは別に債務者が負担し、宿舎も債務者が用意する。」旨の説明をし、債権者らが債務者に入社することを承諾したので、債務者は債権者らの採用を内定した。
(2) 右面接後帰国した山口は、平成三年九月ころ、右内定に基づき入国管理局において債権者らの在留資格を「技術」とする在留資格認定証明書の交付申請をし、同年一〇月三一日ころ在留資格認定証明書の交付を受けた。その際、入国管理局に対して債権者らに支払う賃金月額は総額二七万五〇〇〇円ないし三〇万円である旨申告した。
(3) 平成三年一一月一五日、債務者は債権者らの来日の意思を最終的に確認するとともに、債権者らとの間において前記説明内容に基づく雇用契約を正式に締結し(以下、債権者らと債務者との間の右雇用契約を「本件契約」という。)、賃金を月額三〇〇ドルとする雇用契約書(以下「第一契約書」という。)を作成した。ところが、フィリピン国出入国管理当局から手取額ではなく総支給額を賃金として記載した雇用契約書をフィリピン国出国手続にあたり使用するよう指導されたため、右目的のため、債権者らの署名のある賃金欄未補充の雇用契約書を作成したうえ、債務者においてその右賃金欄を二一〇〇ドルと補充して、新たに賃金額を二一〇〇ドルとする雇用契約書(以下「第二契約書」という。)を作成した。
(4) 債務者は、右契約後の同年一一月末ころ、債権者らに対し、債務者における労働内容を理解させるため、債務者における労働状況を収録したビデオテープ(日本国内向けの広告用ビデオテープであって、英訳等はついていない。)を見せた。しかしながら、債務者は債権者らに対し、来日後の具体的労働内容について右以上の説明はしておらず、前記雇用契約書上も具体的労働内容についての記載はない。
(5) 平成三年一一月一九日ころ、債務者はフィリピン大使館労働省付に対し第二契約書を提出して雇用契約書の承認を求めるとともに職務指示書の発行を求め、同日右承認及び発行を受けたうえ、同月二〇日右各書類に対するフィリピン大使館領事部の最終的承認を申請し、同月二六日右承認を受けた。
(6) 平成三年一一月二六日ころ、債権者らは前記在留資格認定証明書をフィリピン国の日本大使館に提示して査証を申請し、そのころ査証の発給を受けた。また、債権者らは山口から前記承認を受けた第二契約書及び職務指示書を受領し、これをフィリピン海外雇用開発局に提出して同局から海外雇用証明書の交付を受けた(もっとも、債権者らの右出国手続は前記バンコーラが代行した。)。
(7) 以上の手続を履行したうえ、平成三年一二月、債権者らは日本に入国し、山口及び債務者の業務部長である天本信一は入国した債権者らに対し、他の会社が使用していた英文の雇用契約書の定型用紙を債権者らに交付したうえ、天本が口頭で労働条件等について説明し、その後、債務者は英訳の付いた労働条件等に関する文書のコピーを債権者らに交付したが、いずれにおいても債権者らの労働内容・職種は特定されていない。
債権者らは右来日後直ちに債務者が債権者らの寮として準備したアパートに別表②のとおり入居し、債務者における就労を開始した。なお、本件契約に基づき右アパートの家賃は全額債務者が負担するほか、債権者らには、月額手取り三〇〇ドルのほかに、二週間につき七〇〇〇円の割合による副食費が支払われることとなっていた。
三解雇処分の効力
債務者は債権者らを後記のとおり懲戒解雇したところ、債権者らは右懲戒解雇処分は懲戒権の濫用ないし不当労働行為に該当し無効である旨主張するので、右懲戒解雇処分の効力につき以下判断する。
1 本件懲戒解雇処分に至る経緯
(1) 平成四年二月二七日、債権者らのうち臨海町の工場で作業していた債権者アベス、同ピニアーノ及び同ダンピットを除く七名(いずれも新木場工場で作業していた。)が午前中の作業終了後上司に無断で職場を離脱し、同日午後二時ころ、債権者らの所属する労働組合江戸川ユニオンの書記長である小畑精武らとともに臨海町の本社において山口との話し合いを求めた。そのため、たまたま外出中であった山口は、急きょ帰社して前記七名らとの話し合いを開始し、午後三時からは臨海町の工場で作業していた前記三名も右話し合いに参加した(この三名が話し合いに参加するため就業時間中に職場を離脱することについても、山口は承諾していない。)。右話し合いにおいて債権者らは、債務者が保管していた債権者らのパスポートの返還を求めるとともに、本件契約が「化学技術及び電気技術の研修を目的とする契約」であることを前提として、債務者において右研修を実施すべきことを要求した。これに対して、債務者は本件契約は雇用契約であり、債権者らの主張する研修を目的とする契約ではないこと、債務者は債権者らを製糖労働者として雇い入れたもので、製糖技術の研修は製糖作業に従事するなかで習得すべきものであること、賃金が不満であるというのなら話し合いに応ずるつもりがあること、突然の職場放棄は会社の操業上重大な支障があること及びパスポートを債務者において保管していたのは債権者らが債務者に無断で他の職場に移ることを防止するためのもので、右保管については債権者らも承知していたと理解していたことを説明したが、債権者はあくまでも研修の実施を求め、話し合いは同日午後六時ころまで続いた。しかし、双方の研修は折り合わず、結局三月三日の就業時間終了後に第二回目の話し合いをすることとなった。
債権者らは右各職場離脱についてはいずれも債務者の承諾を得ている旨主張するが、前記七名の職場離脱により、同日午前中の作業により溶糖されていた粗糖の原液(直ちに仕込みの段階に移行する必要がある。)が放置されたことにより変質して商品化できない状態となり多大の損害が生じていることに照らすと、債権者らの右主張は信用できない。また、臨海町の工場で作業していた三名が午後三時ころから右話し合いに参加したことについても、山口は午後三時から同三時一〇分までの休憩時間については職場離脱を拒否する理由のないことから右時間中における話し合いへの参加を承諾したにすぎないというべきである(仮に、山口が右三名の職場離脱を承諾していたとすれば、右三名は話し合いの当初からこれに参加しているはずである。)。
(2) 三月三日午後六時ころから行われた二回目の話し合いにおいても、債権者らと債務者との間で前回と同様のやりとりが繰り返されるだけで、何らの進展もなかった。そのため、山口は話し合いを打ち切る旨表明するとともに、債権者らに対し、今後再度債権者らが職場放棄や就労拒否をするのであれば、懲戒解雇もあり得る旨通告した。
(3) 債権者らは三月四日も一応出社したが、あくまで研修の実施を要求し、製糖労働者としての就労は契約違反であるとして拒否した。三月五日も同様であった。
そこで、債務者は三月四日及び五日に開かれた役員会において、債権者らを懲戒解雇することを決定し、三月六日に解雇通知書を作成して、三月一一日までにこれを各債権者に交付した。
2 以上の事実に基づき本件懲戒解雇処分の効力につき判断する。
(1) 債権者のうち二月二七日当時新木場工場で作業していた七名は同日午後の作業を無断で放棄したものであり、その余の三名は同日午後三時一〇分以降の作業を無断で放棄したものであることは前記認定のとおりである。
(2) 債務者が債権者らに交付した解雇通知書によれば、本件解雇は二月二四日付けでなされている。これは債務者が二月二四日以降債権者らにおいて右二月二七日の職場放棄を計画していたとの認定のもとになされたものであって、右認定自体は確たる根拠を有するものではないが、右解雇通知書は二月二七日の職場放棄を主たる解雇理由として掲げているとみられること及び右解雇通知書は三月四日及び五日の債務者における役員会を経て三月六日に作成されたことに照らすと、二月二四日以降債権者らが二月二七日の職場放棄を計画していたとの前記認定に確たる根拠がないからといって直ちに本件懲戒解雇処分が無効となると解するのは相当でなく、二月二七日の職場放棄を理由として懲戒解雇処分をすることが懲戒権の濫用に該当するか否かを検討し、これが認められる場合にはじめて本件懲戒解雇処分が無効となるというべきであるし、また、本件懲戒解雇処分が二月二七日付けでなされていることをもって、直ちにこれが不当労働行為に該当するということもできない。
(3) 債権者らの前記各職場放棄は、債権者らが債務者に対する要求を貫徹するために集団的に労務の提供を拒否したものであるから、争議行為としての性格を有している。いうまでもなく、争議行為は労働者が使用者に対する要求を貫徹するためにする集団的な労務不提供であるが、これが刑事免責及び民事免責を含む法律上の保護を享受するためには、その主体、目的、態様の点において正当なものでなければならない。従って、本件懲戒解雇処分が有効であるか否かを判断する場合、第一に検討しなければならないのは、右集団的労務不提供が争議行為としての正当性を有するか否かである。
前記認定のとおり、債権者は本件契約が研修契約であることを前提として債務者に対し「化学技術及び電気技術の研修」を要求し、右要求を貫徹するため職場放棄をしたものである。しかしながら、本件契約が研修の目的とした契約ではなく雇用契約であることは既に認定したとおりであるから、債権者らの前記要求は債務者に対して本件契約とは別個の「研修を目的とする契約」の締結を求めるものであって、一定の雇用契約を前提としてその労働条件の改善を求めて行う争議行為とは性格を異にしている。すなわち、使用者が労働者との間において新たに別個の契約を締結するか否かは、それが労働条件の改善要求と関連するものでない限り、使用者の契約締結の自由に属する事項であるから、このような契約の締結を争議行為という手段を用いて使用者に要求することは許されないというべきである。従って、本件における債権者らの集団的労務不提供は争議行為としての正当性を有しない。
もっとも、債権者らの国籍がフィリピン国であって日本語の理解が必ずしも不十分であったことを考慮すると、債権者らが前記のとおり研修契約の履行を求めた行為の評価については、文字どおり研修契約の履行を求めたのではなく、前記債権者らの経歴にふさわしい作業内容と労働条件を要求したものであって、結局は労働条件の改善を求めたものであると解することも抽象論としては考えられる。しかしながら、山口が前記話し合いにおいて賃金が不満であるというのなら改善に応じる旨債権者らに申し出たのに対して、債権者らは右申出について検討した形跡すらないこと及び本件契約において債権者らの労働内容・職種は全く特定されていないところ、債権者らは当時従事していた作業を拒否するのみで、具体的にどのような作業をさせてほしいという要求をしていないこと(債権者らの要求する研修の内容も特定されていなかった)に照らすと、債権者らは文字どおり製糖作業とは別個の研修の履行を求めて本件集団的労務不提供をしたものというべきである。
なお、債権者らは前記話し合いにおいて研修契約の履行のほかパスポートの返還を求めているが、山口と債権者らとの話し合いが難航し最終的に決裂した原因は本件契約が雇用契約であるのか研修契約であるのかという見解の相違にあったのであって、債権者らの本件集団的労務不提供の主要な目的は研修契約の履行にあったというべきである。
(4) 以上述べたとおり、債権者らの本件集団的労務不提供は争議行為としての正当性を有するものではないから、これを理由として債権者らを懲戒すること自体は何ら違法ではない。そこで、本件懲戒解雇処分が懲戒権の濫用に該当するか否かについて更に検討するに、本件契約においては研修内容が全く特定されていないのであるから、これを研修を目的とする契約であると解する余地はなかったこと、債権者らは、二月二七日及び三月三日の話し合いにおいて研修の履行を強硬に主張し、山口が三月三日の話し合い打切りに際し同四日以降も就労を拒否した場合懲戒解雇もあり得る旨通告したにもかかわらず、同日以降の就労を拒否したものであって、債権者らの就労拒否の意思は強固かつ確定的なものであったこと及び二月二七日の債権者らの突然の職場放棄によってその日に製造中であった砂糖原料の商品化が不能となり、債務者は多大な損害を被ったことの諸事情を考慮すると、二月二七日の職場放棄を理由とする本件懲戒解雇が懲戒権の濫用に該当するということはできない。
また、右に述べたところによれば、本件懲戒解雇が不当労働行為に該当するということもできない。
四債権者らは本件契約における賃金額は月額二一〇〇ドル(一ドル一三三円の割合により日本円に換算した額は二七万九三〇〇円)である旨主張するので、以下検討する。
1 第一に問題となるのは債務者と債権者らとの間において本件契約における賃金額についてどのような合意があったかということであるが、債務者は平成三年八月のフィリピン国における債権者らの採用面接において、債権者らの労働条件につき「賃金は手取り月三〇〇ドルであり、日本への渡航費、諸手続費用及び食費は債務者が負担し、宿舎も債務者が用意する。」旨の説明をしたこと、第一契約書における賃金額は三〇〇ドルと記載されていること、債権者らは平成三年一二月分、同四年一月分及び同二月分の賃金につき、手取り額三〇〇ドルを前提とする金額を確認したうえでこれを受領していること及び前記二月二七日及び三月三日の山口と債権者らとの話し合いにおいても本件契約の賃金が手取り三〇〇ドルであることは全く問題とされていないことに照らすと、債務者と債権者らとの間においては賃金を手取り三〇〇ドルとする合意が成立していたものというべきである。第二契約書における賃金額は二一〇〇ドルと記載されているが、これは前記のとおり、フィリピン国の出国手続上作成されたものに過ぎないのであるから、第二契約書の存在をもって賃金を月額二一〇〇ドルとする雇用契約が成立したと認定することはできない。
2 前記認定によれば、債務者は本件契約の月額賃金につき出入国手続上は総額二一〇〇ドルまたは二七万五〇〇〇円ないし三〇万円とフィリピン国及び日本の各出入国管理当局に申告し、一方、債権者らには総額を明示せず前記の説明をしていることになる。しかしながら、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第七条一項二号の基準を定める省令(以下「省令」という。)によれば、債権者らの在留資格を「技術」として在留資格認定証明書の交付を受けるには「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が必要であって、債権者らに対する前記説明による賃金が総額において出入国管理当局に申告した金額を下回るばかりか、省令による「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」との基準を満たさない場合には、右債務者の行為は実質的に単純労働者の就労を目的とした行為というべきであって、入管法の脱法行為として社会的・法的非難を免れない。
しかしながら、仮に本件における月額三〇〇ドルという賃金が省令に違反するものであるとしても、右違反は入管法上の処分の対象となるにとどまり、本件契約の賃金額を二一〇〇ドルとする効果は有しないというべきである。
債権者らは、入管法及び省令違反の労働契約の賃金条項は、憲法二七条、一四条、労働基準法三条、二八条に違反しているので、労働基準法一三条及び公序良俗違反によって無効となるばかりでなく、出入国管理当局に提出して適法であると承認された契約書による賃金額をもって当事者間における賃金の定めとすべきであって、さもなければ、前記入管法及び省令の定める規制が空分化する旨主張するが、入管法は日本国の出入国の公正な管理(及び難民の認定手続の整備)を目的とするものであって日本国内で就労する外国人の保護を直接の目的とするものではないこと、入管法及び省令違反の賃金の定めがあった場合の効果について同法は特段の規定を設けていないこと、入管法及び省令上「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」は何ら特定されていないこと、事業活動に関し外国人に不法就労をさせた者については入管法七三条の二によって三年以下の懲役または二〇〇万以下の罰金に処せられること、不当に低い賃金の定めについては最低賃金法等による労働者の保護が予定されていること及び本件において債務者は債権者らに月額手取り三〇〇ドルを支払ったほか、債権者らの渡航費用、宿舎費用及び光熱費を全額支払い、かつ、債権者らのうち男性には毎日昼食を現物支給するとともに、債権者ら全員に対し二週間あたり七〇〇〇円の割合による副食費を支給していたことに照らすと、債権者の右主張には理由がないというべきである。
なお、労働基準法一三条、二八条によれば、最低賃金法違反の賃金の定めがなされた場合は、右定めが無効となるにとどまらず、最低賃金法の定めに従い雇用契約上の賃金額が直接規律される。しかしながら、その場合においても本件契約の賃金額は最低賃金法により決定された最低賃金額の限度まで引き上げられるだけであって、本件契約の賃金額が二一〇〇ドルとなるわけではない。
3 以上のとおりであるから、本件契約における賃金額が月額二一〇〇ドルである旨の債権者の主張は理由がない。
五本件仮処分申立のうち、申立の趣旨1項、2項、4項及び5項は本件懲戒解雇が無効であることを前提とするものであり、申立の趣旨3項は本件契約の賃金額が月額二一〇〇ドルであることを前提とするものであるところ、既に述べたとおり本件懲戒解雇が無効であること及び本件契約の賃金額が月額二一〇〇ドルであることはいずれも認定できないのであるから、本件仮処分申立はいずれも理由がなく、却下すべきものである。
(裁判官山之内紀行)
別表①②<省略>